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  • 執筆者の写真音まち千住の縁

ルーツも文化も表現も混ざり合う「多国籍美術展」がやってくる


李晶玉《Olympia 2020》 2019年、素材:墨、アクリル、デジタルプリント、パネル、紙 220x120x4cmの3点構成  出展協力:株式会社SBIC、Gallery Q

2021年、日本に暮らす在留外国人は約282万人*に。

クラスメイトや職場の同僚、よく行くコンビニの店員さんだって多国籍。

海外ルーツの隣人がいる光景は今や当たり前となっています。

隣り合って暮らす彼/彼女らと交差する瞬間に、あなたは気づいていますか?

*2021年6月現在

すぐ隣にいる誰かの日常を想像するアートプロジェクト


 2013年より足立区を中心に活動する「イミグレーション・ミュージアム・東京(通称:IMM東京)」は、アートを通じて、日本に暮らす海外ルーツの人びとと出会うきっかけをつくってきました。ミュージアムと謳いながら、特定の拠点を持つことなく、「移民」のように区内のいたるところを転々としながら活動しています。

 2021年12月、約10年間の活動の集大成として展覧会を開催します。その名も、多国籍美術展・「わたしたちはみえている -日本に暮らす海外ルーツの人びと-」。母国を離れ日本の地で暮らす彼/彼女らは、日々の生活の中でどのように他国の文化に「適応」し、その中で自らの文化を「保持」し、さらには「融合」しているのでしょうか。

 展覧会では、IMM東京が掲げる「適応」「保持」「融合」というキーワードを、ホスト&ゲストアーティストによる「作品展」、海外ルーツを持つ表現者たちによる「公募展」、多文化社会に取り組む団体の「活動紹介展」という3つのアプローチで紐解きます。

展覧会を形づくる3つのアプローチと

市民リサーチャー「IMM ねいばーず」


 まず、ホスト&ゲストアーティストによる「作品展」。岩根愛、高山明、李晶玉の3名のアーティストを招き、移民や移住、今日の多文化社会を浮き彫りにする作品を展示します。今回の展示にあたり、ゲストの3名には、多様性をビジョンに掲げているオリンピックへのアンサーを新たにお願いしました。IMM東京主宰の岩井成昭も、岐阜県可児市で在留外国人の子どもたちと行ったワークショップのドキュメンタリーほか、これまで手掛けてきた映像作品を多数上映します。

 混沌とした今このときを生きるアーティストたち。その思い思いの「答え」に触れてみてください。

海外ルーツを持つ表現者の公募作品 Cedric Rolando - Neoyume《#東京の決まり文句 - 1:14 銭湯》

 次に、日本に暮らす海外ルーツの人びとの表現を紹介する「公募展」。2020年、国籍も年齢も肩書も表現形態も問わない「あなただけの表現」を多言語で公募し、約50名100点超の作品が集まりました。その中から、10名の表現者たちによるバラエティ豊かな作品が一堂に会します。出展者の中には、新型コロナウイルスの影響で母国への帰国を余儀なくされた方々もいます。それでも「ぜひ展覧会に参加したい」という強い思いから、いくつかの作品は、はるばる海を越えて届けられます。


 日本各地にはまた、多文化社会に丁寧に向き合うさまざまな団体があります。IMM東京が独自にリサーチした、そうした団体の取り組みを「活動紹介展」として展示します。各団体が用いる表現の手法や活動の対象は、多種多様。試行錯誤を重ね、言葉や文化の差異を超えたコミュニケーションを紡いでいます。そのユニークな取り組みからは、隣人と出会う新たな交流のヒントが見つかるかもしれません。各団体の多大な協力のもと、異種混交な活動をじっくり体感できる空間デザインを、アーティストユニットのL PACK.(エルパック)が手掛けます。


 これらの3つのアプローチに加え、IMM東京には市民リサーチャー「IMM ねいばーず」の存在が欠かせません。展覧会の開催にあたり、公募で集まった「IMM ねいばーず」は、多文化社会とアートについて理解を深めるレクチャーやディスカッションを定期的に重ねてきました。今夏からは、「多文化リサーチ」と名付けたフィールドワークを実施。新大久保や西葛西といった、異国の文化を感じるエリアを調査しました。これをふまえ、「滲み出る多文化」と「食」をテーマに、来場者が参加できる仕掛けを会場に施します。

市民リサーチャー「IMM ねいばーず」による多文化リサーチの様子

あなたもわたしも、いろんな文化を抱える「移民」だとしたら


 最後に、展覧会のタイトルにある「わたしたち」とは果たして誰のことでしょうか。そして、「わたしたちはみえている」と言えるのでしょうか。

 多国籍美術展は、このような疑問に対するひとつの明快な答えを示しているわけではありません。「内なる国際化」の進む日本で生きる彼/彼女らが、生活の中で何を大切にし、何を吸収したいと感じているのか。会場にちりばめられたしなやかな表現を通じて、彼/彼女らの暮らしがより輪郭を帯びたものとして、各々の心の中に迫っていくことを期待しています。

 そして、海外ルーツの有無にかかわらず、「わたしたちはみえている」のかをともに考えるきっかけとなるならば……。そのような密やかな思いがタイトルに込められています。


執筆=韓 河羅(IMM東京 企画チーム)




[会期]2021年12月11日(土)〜26日(日)13:00〜19:00

[会場]北千住BUoY(足立区千住仲町49-11)、仲町の家(足立区千住仲町29-1)

   ※北千住BUoY:火曜日休み、仲町の家:火〜木曜日休み

[入場料]無料

 

【2021年11月発行号掲載】



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