風情ある日本家屋が、新たなアート・スペースに!
千住のまちをつくった祖先のひとり石出掃部介吉胤(いしでかもんのすけよしたね)の、ご子孫が大切に守ってこられた美しい日本家屋と庭が、千住仲町(せんじゅなかちょう)に残っている。対象末期の関東大震災で傾き、その後に建て替えられたというが、建て替える前に使われていた部材がほとんどそのまま再利用されて造られたと伝えられ、庭に入ると誰もがその、時を重ね、力強くも優しい風情にこころ惹かれる。
「音まち千住の縁」が、この家を活動拠点としてお借りするようになったのは、2016年の夏のこと。仲町の歴史を見守ってきた家だから、「仲町の家(なかちょうのいえ)」と呼びたいと、みんなで決めた。
同年の夏から秋にかけて、3つの企画が仲町の家をベースに始まった。「イミグレーション・ミュージアム・東京」は、アートで異文化と出会うプロジェクト。足立区に暮らすフィリピーノたちが語る映像展示「フィリピンからの、ひとりひとり マキララ ー知り、会い、踊るー」と、千住在住30年のデンマーク人ジャーナリストが記録してきたまちの風景を展示した写真展「銭湯哀歌(エレジー)、人情屋台、消えゆく昭和〜ケント・ダールが歩いた千住〜」。トークショーやワークショップも交え、多くの方に足を運んでいただいた。
もうひとつが「千住・縁レジデンス」。アーティスト友政麻理子が、路地をテーマに、まちの人と一緒に6本の映画づくりに取り組み、その成果は「知らない路地の映画祭」として、この仲町の家で、上映された。
そして冬。まちの「音」を録音・編集して、音盤(レコード)をつくる「千住タウンレーベル」が本格スタート。
現在、仲町の家を主な「場」として活動するこれらのプロジェクト以外にも、ミーティングや交流の場所として、さらにはご縁ある他団体とのネットワークづくりの場として、仲町の家に集う人の輪は、少しずつ広がりを見せている。江戸の空気が通い、石出家の5姉妹の愛情をゆるやかにまとった空間は、今、アート活動の家として、千住に新たな縁を育む場となった。
舟橋左斗子(足立区シティプロモーション課)
狩野歌之助筆《石出掃部介吉胤肖像》絹本着色、軸装、一幅
協力:足立区立郷土博物館
千住仲町をつくった石出掃部介吉胤(いしでかもんのすけよしたね)
千住仲町あたりは、江戸時代の初めごろには低い湿地帯で、一面に葦の生える隅田川の河原だったという。この広大な湿地帯を開拓し、人が住んだり作物を植えたりできる土地に変えたのが、石出掃部介吉胤だ。
隅田川に最初に架けられた橋である千住大橋の工事に携わり功績をあげ、その後、隅田川に近い土地を開拓。さらに、その土地を水害から守るため、高さ4メートル、長さ約2キロに渡る土手を築いた。この土手は掃部堤[かもんづつみ]と呼ばれ、現在の墨堤通りにおおむね重なる。
開拓された土地は後に「掃部宿[かもんじゅく]」と呼ばれ、宿場町だった千住宿に加えられることになる。現在の千住仲町を中心とするエリアである。
大家さんが語る
この仲町の家(石出家分家)に住んでいたのは、小説になりそうな仲良し姉妹でした。私の母は次女で、本家に嫁いでこの(分家)を出ましたが、私のこの家の記憶は、4人のおばたちと深く結びついています。
長女は、姉妹のまとめ役で、大黒柱みたいに妹たちを見守っていました。一番長生きしたのが、三女です。お茶の先生をしていて、奥の茶室もそのために造ったと聞いています。平成17年に96歳で亡くなりました。食事の支度などを一手にやっていたのが四女。一番家庭的できれい好き。末っ子の五女のおばが美人でね。都会の女性という感じがして憧れていましたね。
仲町は大半が戦争で焼け、本家も焼けてなくなりました。一方、分家(現・仲町の家)は、勝手口の門のところで火が止まり焼け残った。おばたちが亡くなって、この家を受け継いだ以上は、何とかして守りたいという気持ちがあります。歴史を背負ってる家ですからね。
それでも維持が大変です。一度は介護事業者にお貸ししたこともあるのですが、隣の「くろい家」*をお借りいただいた経緯もあるので、音まちのみなさんに使っていただこうと決めました。
(談・石出道治氏)
石出家分家の古いアルバムに残る、三女の野点
勝手口の門を入ってすぐに置かれた大釜の風景は、今も昔も変わりがない。雨水がたまっているが、銅の雨どいを流れてくるせいなのか、ボウフラが発生しない。石出さんに夜と五右衛門風呂ではなく、醤油などを煮ていた釜ではないかとのこと。
生け花にチャレンジする友政さん
仲町の家を拠点に活動する美術家 友政麻理子の話
2015年から、千住・縁レジデンス「知らない路地の映画祭」の活動で千住に滞在しています。昨年の秋、実家の近くのコスモス畑で摘んできた花束を、この家にあった大きな花瓶にさしてみたのが最初で、その後、映画祭で出演いただいたミリオン通りの花屋さんと親しくなったこともあって、花を生けはじめたら楽しくなってきちゃって(笑)。店主さんにアドバイスをもらいながら生けています。
それからこのごろ、ふと思い立って急に掃除を始めることがあるんです。石出さんの話を聞いて、お茶やお花をたしなんだ5人姉妹の三女、窓の欄干がすり減るほど拭き掃除をしていた四女のおばさまに、もしかして導かれてる?と思いました。このまちに仕掛けにきたつもりでしたが、もしかしたら、仕掛けられているのかもしれません(笑)
草むしりと交流会
音まちスタッフや地域の協力者で2ヶ月に一度、庭の草むしりをしている。毎回、ビフォー・アフターが見違えるほど変わり、やりがい大!
草むしりが終わった後の、苔むす広い庭が何とも美しく、縁側から、自分で手をかけきれいになった風景をほれぼれと眺めながら、みんなで交流するのが常。飛び入り歓迎!軍手を用意してお待ちしております。
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