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  • 執筆者の写真音まち千住の縁

自主映画プロジェクトで青春カムバック!|知らない路地の映画祭



参加者が主体となって自主映画を制作した「知らない路地の映画祭」。

「場」と「音楽」から生まれた作品の数々を振り返る。


 ミリオン通り商店街にかつて、千住唯一の洋画館「ミリオン座」があった。戦後、千住は東宝・東映・松竹・日活・新東宝などの封切館が揃う映画のまちであったのだ。

 現在は千住庁舎が建つその場所で、2016年3月11・12・13日、「知らない路地の映画祭」が開催された。アーティストの友政麻理子が発起人隣、市民が参加して自主映画を制作、完成作品を披露する上映会だった。区民広報誌などの募集を見た参加者が秋から準備を始め、紆余曲折ありながらも作品を完成。観客に見てもらえる喜びが、展示会場の装飾にも現れていた。計5回の上映で、短編とはいえ6作品を最後まで引き込まれるように見ている観客の姿が印象的だった。

 友政から参加者に最初に提示された条件は二つ。千住の路地を舞台とするが、映画の中に実在の街の名前は入れず、知らない場所として描くこと。既存の映画制作システムを真似るのではなく、映画のつくり方から考えて制作すること。映画づくりに関して知らなくてもいい。映画以外のことから始めて、撮りたいものをどのように撮るかを編み出すことに重きを置いていた。

 参加者は、千住の周辺地域からが多く、映画音楽や映画字幕のプロや、映画・映像ワークショップの受講経験者もいれば、知識も経験もないが共同制作を通じて母子の時間が持てたり、海外からの移住者が友人たちに音声や照明などを頼んでチームをつくったり、制作プロセスにも千住の地域性が反映されていた。

 今回の自主映画は、「場」と「音楽」から生まれたといってもいいだろう。例えば、地域散策で、住宅街の中に小さな五差路を見つけたことから始まった「誤差路」は、人生に希望を見出せなかった女子大生が、異次元に迷い込む中で、化身と出会い、自身を見直していく。「見上げる女」は一人の女性が空を見上げ、何を見ているのか気になった人々が集まるという作品だった。また、「帰り道」は、路頭に迷った男が、見知らぬ他人の「人を信じてみろ」「まっつぐいけ(江戸弁)」という素朴な言葉に救われる。新潟から参加の「Letter & Bread」は、千住のパン屋から発想して、新潟と千住を結ぶストーリーを描いていた。

 その多くが、野外で実景を撮影しながら、見えないもうひとつの世界を想像させようとしていた。生きづらい現実から異界に一度移り、現実の見え方を変えて戻ってくる物語。一方、足立で暮らすアーティストのドキュメンタリー映画「小日山拓也の世界」は、それらに対して続きを返しているかのように感じた。周囲の証言を集めて人物を語る手法で、音楽活動および「音まち」を媒介として、身近な自然や人々の営みの中で肩の力を抜いて「暮らし」を守っている。もう一編、猫の気ままな姿を撮った「ジローノウタ」の音楽は秀逸で、映画祭全体を象徴する楽曲にもなっていた。他でも劇伴音楽に救われた作品が多かった。

 筆者は、制作過程に何度か居合わせる中で、映画制作自体は現実に対応する反射神経と経験の学びの場だと感じた。撮影場所の許可、小道具の調達、キャスティング、参加者のスケジュールを合わせるのも大変そうだった。電車がなんども通るなどの録音の難しさ、極寒の撮影に体力も奪われた。けれど、撮影許可を取る際にキデンキのエピソードをまちの人から聞き、映像に残されたことなどは、こうした制作過程があったからでもある。完成や上映時には喜びもひとしおで、「人生観が変わった」「映画づくりをしなければ出会えなかった人に出会えた」「次回もまた参加したい」という声も多い。おそらく次回は、既存の映画のシステムを手探りでなぞるというよりも、新しいアイデアを試す機会になるだろう。逆転の発想から何が生まれるか。「知らない」ことの強みがそこにある。


白坂ゆり(アートライター)



上映作品


誤差路

監督:Jax/脚本:阿部吉光、シビル・レジョリ(Sibylle Le Jolly)

出演:森本菜穂 ほか

上映時間:13分30秒


胸に鬱屈したものをもつ女子大生。

人生に希望を見出せず、悲観していると、なぜか異次元空間を呼び寄せてしまい、この世とあの世の境目をさまようはめに。

そこに現れた人々の言葉から、彼女がつかんだものとは--。

香港出身の監督が描く現代の奇想譚。





帰り道

監督・脚本:松岡亮一/音楽:カワシマヨウコ

出演:百瀬崇 ほか

上演時間:12分46分


「私はただ、家に帰りたかった」--。

男は帰り道を探し、路地をさまよい歩く。

だが、歩いても歩いても同じ路地にたどり着いてしまう。

その原因は何か。そして男がたどり着いた先にはいったい何が--。

新たなスタイルのロードムービー。




見上げる女

監督:杉浦啓之/脚本:阿部吉光

音楽:カワシマヨウコ、小日山拓也/出演:掘素美子 ほか

上演時間:11分16秒


空を見上げる女がいる。何かに魅せられたようにずっと見上げている。

その姿に興味を持った人々が集まり、女と同じ方角に視線を向ける。

だが、女が空を見上げている理由はわからない。

そしてついに女がその答えを告げると--。

ハートフルなエッセンスが詰まった傑作。




Letter & Bread

監督・脚本:平岩史行/撮影:新木康平(新潟)、杉浦啓之(千住)

出演:中村拓哉 ほか

上演時間:13分06分

[「潟の夢映画祭」(新潟)と「知らない路地の映画祭」の共同制作]


一緒に暮らすマモルとハルナ。だがある日、ハルナは姿を消した。

ハルナが好きだったパン屋の店主から渡された一通の手紙。

そこにはハルナの思いがつづられていた。そしてマモルが取った行動とは--。

新潟と東京を結ぶ、さわやかなラブロマンス。




小日山拓也の世界

監督・音楽・撮影:岡野勇仁/出演:小日山拓也 ほか

ナレーション:胡舟ヒフミ/編集・整音:moriken ほか

上演時間:36分39秒


「あいつは変態だよ」「彼は天才よ」「僕の師匠ですね」--。

希代のアーティスト小日山拓也を知る人はこう語る。

音楽を奏で、絵を描き、周りの人々に勇気を与える小日山。

人と土地とのつながりをテーマにし、

彼の人生にせまる心あたたまるドキュメンタリー。




ジローノウタ

監督:杉浦啓之

音楽:カワシマヨウコ

上演時間:2分42秒


路地といえば、猫。

路地裏に住むジロー(猫)が路地をジロジロ、

まちや人を観察している様子を歌にした。

幼児や女子高生、お母さんたちが初めてレコーディングに挑戦。

子供から大人まで、親しみやすく、口ずさめる曲と映像が生まれた。


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