「ずれてる」がサイコー! になる場所で|小日山 拓也
- 音まち千住の縁
- 7 時間前
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プロフィール
小日山 拓也|こひやま たくや(だじゃれ音楽研究会メンバー)
美術家・音楽家。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。フリージャズ集団「New Jazz Syndicate」や「千住ちんどん」などで即興演奏を行うほか、自作楽器づくりのワークショップを美術館、小学校、保育園などで開催。芝の家(東京都港区)では音楽ワークショップ「音あそび実験室」を不定期で開催。2023年より千住いえまち「地口行灯プロジェクト」にも制作スタッフとして参加している。
ハ長調の曲なのにシャープのついた音を出し続ける人がいる。「白い鍵盤を押すんだよ」っていくら伝えても、3秒くらいで戻っちゃう。「イパネマの娘」の替え歌をやろうとしたら、サビの始まりがことごとくずれる人がいる。そんなとき、鍵盤ハーモニカがうまくすき間を開けながら、さらっと追随する。すると、独特で、固有のメロディーが心地よく流れはじめる。だじゃれ音楽を手がける野村誠さんといると、そんな不思議なことがよく起きるんです。
「ずれてる」とか「間違えてる」とか「できてない」とか「変わってる」とか、指摘されがちなことがここではむしろ「サイコー!」と受け入れられる。これまで無意識のうちに排除しようとしてきたものがプラスに変わる経験、自分の中のステレオタイプな規範意識が揺さぶられる経験を、だじゃれ音楽研究会(だじゃ研)では何度もしてきました。
とにかく楽しかった
音まちに参加しはじめたきっかけは、2011年に足立市場で開催された「ぬぉ」※1です。2浪して入った東京藝大では油画を専攻したけれど、大学を出てからは好きな音楽にのめりこむようになりました。音楽は何でも好きだったけれど、自分がたどり着いたのは先鋭的なフリージャズや即興音楽。そんな自分にとって、音まちは魅力的でした。
2012年の「風呂フェッショナルなコンサート」※2ではペットボトルを使った自作の「湯笛」をメンバーに演奏してもらいました。2014年の1回目の「千住の1010人」では、ギター班のチームリーダーとして参加し、オープニングで「すっぽんぽん体操」※3を弾きました。
だじゃ研に限らず、「仲町の家」には千住に来れば顔を出しています。音楽好きな仲間とゆる〜く結成した「縁側バンド」として演奏したり、自分のライフワークでもある「影絵」を楽しんでもらうための小さなイベントを開いたり。音楽家として美術家として、自分が持っている要素を、音まちの中で伸ばしてもらってきたと思います。
支え役なんて、柄じゃないけど
当初は主に楽器を演奏するプレイヤーとして関わったけれど、10年以上関わってきた今の自分の役割は、音まちに参加してみたけど何となく迷っていたり、居心地悪そうな人に声をかけるというか、フォローするというか。ふらっと迷い込んだ人たちに対して、事務局メンバーが「足立区と東京藝大とNPOが一緒に主催する…」みたいな話をしはじめるのを聞いていて、「それじゃダメなんだよな」と思っていたからかもしれません。だから、千住を訪れて音まちに参加して、居場所がまだないなって人に「座ったり寝転んだりして、ゆっくりしてください」「時々飲み会もやってますから」みたいなことを言ってみたり。自己アピールの時代から、いつしか来た人の受け皿になろうという意識になっている自分がいました。支え役なんて、柄じゃない。でも、そんなことを言うおっさんも、ここには必要なんじゃないかって。
根拠のないことをやり続ける
野村誠の作曲する「千住だじゃれ音楽祭」は、即興だけじゃなくて楽譜があるから、厳密にやろうとすると、ちゃんと練習もしなきゃいけない。キャッチボールして、その軌道のように音を出すとか。一方で、何をやってもいいという無秩序さもある。その一見相容れなさそうなものを共存させようとする。ごった煮にする。自分としては、これまで見たことのないような異質なものを見続けている気がして、そこが面白いですね。楽器を弾きこなす人も楽しいし、いわゆる「楽器」というものに触れたことがない人も、心躍る体験ができる。
音まちの良さは、根拠のないこと、理由のないことをやり続けているところだと思います。自分が関わる福祉の場での活動も「問題行動がなくなる」とか「話せるようになる」とか、何か効果を求めてやるわけではなく、少しでも幸せを感じてもらえればそれでいいと思っていて。音まちも参加して少しでも楽しんでくれれば、それでいいんです。「何も排除しない」ができるのはアート。そこに社会的意義を感じて、関わっている——というのは、後付けの理由かもしれないですね。
インタビュー・執筆=舟橋左斗子+篠原美奈
※1 足立智美 コンサート「ぬぉ—チューバと自動車と器楽、合唱のための魚市場 ねぎま鍋付」
2011年に足立市場にて開催された、足立智美と公募で集まった約70人の演奏者たちによる即興的音楽のコンサート。ターレーの運転や模擬セリ、ねぎま鍋の調理など、市場ならではの演出が展開された。
※2 野村誠ふろデュース「風呂フェッショナルなコンサート」
2012年に足立区の銭湯タカラ湯を会場に開催された「千住だじゃれ音楽祭」の企画第1弾。野村誠と公募の演奏者がお湯や桶、浴室の反響を利用したユニークな演奏会を実施した。
集まれ!風呂フェッショナル:https://youtu.be/Haf3HP-mtn4?si=41PADRK7CsF2heU9
※3 「すっぽんぽん体操」(作曲:小日山拓也、作詞・振付:小川実加子)
体操しながら、鼓のリズムを覚えられるだじゃれ音楽。
【2025年9月発行号掲載】
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