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  • 執筆者の写真音まち千住の縁

便利だけと都会でもない、その感じがいい。|東彩織さん、山崎朋さん


居間 theater「4人姉妹の家びらき・夏」(2018年)



下町コミュニティ


 「猫がね、迷子になってたんです。そしたら近所の人たちが集まって飼い主を探して。私もポスターを作ったりして(笑)。猫コミュニティというか下町コミュニティというか・・・」と話すのは、千住仲町に暮らす、東京藝大音楽環境創造科助手の東彩織さん。迷子猫を助けるというミッションにご近所ぐるみで、チームワークで取り組むコミュニティがあるのが面白いという。藝大で学んできたが、千住に住んでいる同期生が多く、何かあれば泊まっていたので、近くに住めば一石二鳥と引っ越してきた。「友達もみんな忙しくてなかなか予定が合わないけど、まちなかでばったり会えるのはとてもいい。地震などの災害時にもすぐ会えると思うと安心」と東さん。

 東さんが活動するパフォーマンスプロジェクト「居間theater」のメンバーで、同じく東京藝大大学院国際芸術創造研究科助手の山崎朋さんは大学入学と同時に千住仲町に暮らし始め、大学時代、大学院時代、そして仕事を始めてからも変わらず、10年以上をこのまちで暮らす。大学に近いところで探して今のアパートに決めたが、ミリオン通りの雰囲気も決め手のひとつだった。「当時は八百屋が2つ、豆腐屋、魚屋、花屋、乾物屋などが揃っていて、商店街感がすごく好きでした」。10年の間にお店が減ったのは寂しいが、かどのめし屋などよく通っているお店もあるし、新しい店もできた。ミリオン通りから少し足を伸ばして、かもん宿商店街の韓国料理・韓味園やインド料理・エベレスト、墨堤通りのslow jet coffeeへもよく行く。「何でも近くで揃って暮らしやすくて、年々出たくない(笑)。交通の便も良くて何かと便利だけど、都会って感じとも違う、それがいい」。商店街の小さなお店や、町会の夏祭りに、晩ご飯の途中で「ちょっと出かける」なんてことができる距離感も気に入っている。



4人姉妹というフィクション


 居間 theaterは、仲町の家が「千住の文化サロン」として開くことになった2018年の夏のオープニングイベントとして「4人姉妹の家びらき・夏」を上演し、好評を博した。「4人姉妹がこの家に暮らしていたと聞いて、居間theaterもちょうど4人なので、そこを出発点として創っていきました。今まで居間theaterとしてやってきた中では一番、演劇然としている作品だったと思います」と山崎さん。

 「不思議な家だな、って思ったんです。たとえば、4人はどうやって寝てたの? とか。『開く』って言っても、閉じられた家で、もともと開くためにつくられた場所じゃないし、まちの人に聞いても、存在は知ってるけど、家の中まで入ったことのある人はいなくて、それを『開く』っていうコントラストが面白くて。閉じられているけど、大事にされ、手入れされているし、単純に、あの家の雰囲気と力に魅せられた」(東さん)。「私も、ずっと近くに住んでたけど知らなかった。話を聞いたとき、うちの近くにそんな家あったっけ? って思った。何十年も何百年も人が住んでた家なので、そのことをよく考えないと……その痕跡を無視しない方がいいなって思ったんです。上演のなかでも、家の風景やディテール、庭を見せたり、昔に想いを寄せたり…古い家をただ会場として使うというのではなくて、家自体が、観る人の気持ちを動かすことが多くて。それは狙っていたことだけど、狙ってた以上に家の力が強かったです」(山崎さん)。

 さらに「4人姉妹の家びらき・夏」は家の中だけでは完結しなかった。観客はまるでこの家の客のように広間に座って上演を観ていたのだが、4人姉妹の台詞の中でミリオン通りを歩き、昭和40年代のミリオン通りにもタイムトリップした。「近所の人に昔の地図をもらったり、子どものころの話を聞いたり、4人姉妹のお墓参りに源長寺に行ったり、そうしたら源長寺で会いたい人に会えたり、偶然も重なって面白かった」(東さん)。仲町の家で滞在制作を行っているアーティストの友政麻理子さんが、すでに地元の人との関係を築いていたので、取材したいときにはつないでもらえたりできたことも大きかった。まちを作品の中に組み込むことで、「お客さんが、上演の時間だけじゃなくて、行き帰りも作品の中にいるような目で、まちを感じてくれたらいいなって」(山崎さん、東さん)。

 また、終演後に観客がすぐに立ち去らず、その場でお客さん同士の会話があったこと、そして、家への興味で観に来てくれた人が多かったのも面白かった。「普段から、作品目当てで来るのではない人とどう出会うかということは考えているのですが、今回はやはり『家』の存在が大きかったですね。それはありがたいことでした」(山崎さん)。



銭湯で裸のミーティング

 

 作品を創りあげていく時間も楽しかった。「大黒湯の露天風呂でミーティングしたり(笑)、夏の暑い日にクリエイションで疲れ果ててまじ満にかけ込み、うな丼がめっちゃ美味しくてめっちゃ元気もらったことも。忘れ物しても取りに帰れたり、何ならトイレに帰ることもできる距離で、普段の創作活動とは異なる体験ができて面白かったです」(東さん)。

 自分たちはもちろんだが、学生たちや藝大関係のアーティストにとって、大学に近い仲町の家やBUoYのようなアートスポットができたことは、意味が大きいという。

 「今の学生って常にバイトやサークル活動で忙しいみたいなんです。私が学生の頃は池袋とかに出かけて週に1、2回は芝居などを観てたけど、今の学生は忙しいからそういう機会が減っている。でも、近くにあるから、BUoYの公演でバイトしてる子などもいて、その関係で公演を見たりしている。近いからということで観る機会が増えるのはいいと思う。それに、自分で何かやりたいと思ったとき、学生だけでやろうとするとけっこう大変なんです。でも近くにこういう『場』があるから、BUoYでライブをしたり、仲町の家に企画を出したりできて、発表できる場が増えてる。しかもそれが1つでなくて複数あるのはいいと思います」(東さん)。

 まちに関していうと、BUoYができてから、夜、まちを歩いている人の雰囲気がちょっと変わったという。演劇やダンスをしているような人、アーティストっぽい人とすれ違ったりすることが増えた。下町の商店街の雰囲気が好きだったので、変化には多少違和感も感じるが、近くに劇場ができたことで自分たちも、ふだん観ないような公演を観られるのがいいという。

 「このまちは何かと便利で住みやすいし、引っ越す理由がない。東京で仕事しているうちはここにいたいって思います。銭湯もあるしね(笑)。昔のまま、暮らしやすいまちでいて欲しいし、下北のようにはなってほしくないけど、BUoYや仲町の家のような動きもいいですよね。急に盛り上がりすぎないで、じわじわ馴染んでいくといいな」(山崎さん)。


(インタビュー・執筆:舟橋左斗子)













プロフィール


居間 theater


演劇やダンスを背景にもつメンバーを中心に活動。 東京藝術大学卒業後、2013年から東京谷中にある最小文化複合施設「HAGISO」を拠点に活動をスタート。 音楽家や美術家、建築家など分野の異なる専門家との共同制作のほか、カフェ、ホテル、区役所など、既存の “場” とそこにある “ふるまい” をもとに作品創作をおこなう。 現実(日常)にある状況とパフォーマンスやフィクション(非日常)を掛け合わせることで、誰でも参加可能でありながら、現実を異化させるような独特の体験型作品をつくり上げてきた。 これまでに、通常営業するカフェでコーヒーと同じようにパフォーマンスを注文できる「パフォーマンスカフェ」、区役所の一角にアートを推進する架空の窓口を開設した「パフォーマンス窓口」など。 人が集まって時間や出来事をともにする「居間」的な、そして「劇場」的でもある場所のことを考えながら活動中。


東彩織さん=写真左、山崎朋さん=写真右


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