プロフィール
鶴巻俊治|つるまき としはる
会社員/北千住「島」プロジェクト 管理人
新潟県加茂市生まれ。屏風職人の家庭で育つ。新潟大学大学院(建築計画学/子供の遊び場研究)修了後、1992年より東京で大手建設会社勤務。2003年より千住在住。3児のパパ。2013年から「イミグレーション・ミュージアム・東京」に参加。2016年度の千住・縁レジデンス「知らない路地の映画祭」の上映作品「キラル☆キラル」にも末っ子と一緒に出演。今後は、足立のまちづくりを考える「AB+(あだちブレーンプラス)」に参加予定。
向かいのお宅で1時間
足立区に暮らし始めたのは千住育ちの妻との結婚がきっかけです。新潟で育ち、大手建設会社に就職して東京に出てきて、当初は流行の先端に憧れ自由が丘に通ったりもしましたが、東京っ子の妻が思いのほか地に足がついているのに惚れたので、住むなら東京の西側でなく東側がいいと思ったのです。
千住には2003年から暮らしていますが、週末ごとにイベントがあったり、「町雑誌千住」(タウン誌)がとても面白かったり、まちに出ると何かハプニングがあるし、千住っていいなあと。近年では、家の近くにあった音(おと)う風屋(ふや)(※)の「未来楽器図書館」も楽しかった。
2006年には、千住の柳原に自分の設計で家を建てました。よそ者がまちに入っていくことにすごく不安もありました。それが、引っ越して何日も経たないうちに、当時小学生だった子供たちが、路地を挟んだ向かいのお宅に上がらせてもらって、1時間も帰ってこなかった。最初はちょっとためらいも感じたのですが、その後もいろんなお宅に上がりこんで、まちのみなさんにかわいがっていただいた。親がなじむ前に、子供たちがなじんじゃって(笑)。それに、桜祭りのときに踊る人や並木道でサッカーやキャッチボールをやる人が家から見えて楽しくて、引っ越して本当に良かったなあと思います。
千住を「島」と妄想する
仕事ではタワーマンションなど住宅の設計が多いのですが、短期間で収益性の高いものを求められ、じっくりとまちと向かい合い、長い時間をかけてまち全体の細かい個性を考えることは少ないんです。自分のような建築屋は、本当はまちのことも考えて「こうしたほうが良いのではないですか」と話をしたいとも思うのですが、サラリーマンとしてお客様の要望に合わせざるを得ない場面もあったりする。そのことに矛盾を感じ始めていたころ、千住ではいろんな人がそれぞれ楽しそうにやっているのを見て、まちへの関わり方、まちを良くする手法はたくさんあると感じたのです。
そんなとき出合ったのが音まちの「イミグレーション・ミュージアム・東京」(以下、IMM)です。音楽はあまり得意じゃないのですが、市民参加型で自分も主体的に関われると思い2013年から参加しています。知らないメンバーが一緒になってまちへ出てアート作品をつくるというのがものすごく新鮮でした。ただ、子供3人がまだ小さくて、奥さんひとりに世話をお願いするわけにもいかず(笑)。2014年から「北千住『島』プロジェクト」(以下、島プロ)をひとりで始めました。千住って隅田川と荒川に挟まれた特殊な形をしてますよね。このまちを「島」と妄想すると面白くなりそうだと思って。まず、路地を巨大迷路に見立ててすべての道を歩く企画を始めたんです。毎週日曜の朝、決めたエリア内を一筆書きで歩き尽くす。それをFacebookで報告していきました。「島」の外周部など、住んでいる人しか行かないエリアもたくさんあるのが、ミステリアスだなと思います。
仕掛ける側に加わる楽しさ
初めにゴール設定した企画はだいたい終わりましたが、島プロをやっていることで声をかけていただきまちを案内する機会もできたり、人と出会う接点になっています。自分の田舎ではイベントは年に1、2回しかなかったこともあって、いつもざわざわ賑やかで、いろんな楽しいことが起こる千住を見てると「島が揺れてる!」「沸騰してる!」と感じます。すごく好きですね、千住。音まちは、そこを舞台に駆けずり回っているイメージ。常に何かを仕掛けて、何かが起こる起爆剤ですね。その仕掛ける側に加わるってことが幸せです。
2016年のIMMでは、フィリピンの方々にインタビューして「住まい」について冊子にまとめ、展示しました。話したくないという人もいて、大変でしたけど(笑)。あるフィリピンのお宅では、帰ると知らない人が家に上がり込んでコーヒーを飲んでいるようなことが日常だとか、キッチンが2つあってひとつは他人が立ち入れない通称「ダーティキッチン」と呼ぶのだとか、住まいを通じて文化や習慣を知ることができ、すごく面白かったです。わからないままでいるより、違いをお互いにわかってるほうが、より豊かになれるよね。
(インタビュー・執筆:舟橋左斗子)
※ 音う風屋(おとうふや):柳原の商店街に面した、元豆腐屋だった空き店舗を、2012年~2013年、音まちの活動拠点としていた。「未来楽器図書館」は、気鋭のアーティストが提案する、見たこともない楽器に触れられる場としてまちに開いていた。
【2018年1月1日発行号掲載】
Comments