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執筆者の写真音まち千住の縁

未曾有の日常を生きるわたしたちの、ささやかな芸術祭。

更新日:2021年12月1日


1DAYパフォーマンス表現街
イラスト:宮田篤

懐の深い東東京のまち・千住で

人と人との感情や価値観のやりとりを「人情」と捉え

多様な表現者を受け止める舞台、それが「千住・人情芸術祭」だ。

「質問」、「窓」、そして「商店街」を入り口に、

3つのプログラムが今秋開催!


 「千住・人情芸術祭」と聞いて、どんな様子を思い浮かべますか? 人情は、江戸時代の町人文化のなかでよく扱われてきたテーマのひとつです。実らない恋物語や、面倒を見たばっかりに巻き込まれてしまう憎めない厄介ごと、お互いさまの隣人付き合いなど、損得勘定や合理的な判断だけでない、人と人との関係性やふるまいの妙が描かれています。千住は、そうした古の風情やふるまいの残る場所として知られ、「音まち千住の縁」(以下、音まち)の活動もここに住む方々の心意気に大いに助けられ、励まされてきました。「千住・人情芸術祭」では、人と人との感情や価値観のやりとりを「人情」と捉えて、多様な表現者を受け止める舞台を設えます。開催は、2021年9月〜10月にかけての約1か月間。期間中、音楽、映像、パフォーマンスといった3つのプログラムを展開します。


 先陣を切るのは、文化活動家・アサダワタルの「コロナ禍における緊急アンケートコンサート 《声の質問19 / 19 Vocal Questions》」。この企画は、2020年4月の緊急事態宣言下に始まりました。質問家・作曲家である田中未知の著書『質問』(1977年)にインスピレーションを受けたアサダは、友人たちと声による質問と回答の音声を送りあっていました。そこから同年秋、「緊急アンケート《コロナ禍における想像力調査 声の質問19》」に発展。半年の間、音まちの拠点である「仲町の家」を訪れたさまざまな人びとに、アサダの声で19の質問を問いかけ続けました。「2メートルは遠いですか、近いですか」「あなたは、あなた一人のことを指しますか」――回答者の息づかいとともに吹き込まれた約80人の答え(回答の録音)には、コロナ禍の生活で感じた苦悩や喜び、悲しみや楽しさなどが音に表れています。それは質問者であるアサダへの回答なのか、はたまた自分自身、あるいはほかの誰かへと投げかける新たな「質問」なのか……。この回答をもとに企画されるのが「緊急アンケートコンサート 《声の質問19 / 19 Vocal Questions》」です。コロナ禍に集まった80の声によって、私たちの今を「共に(Con)・確か (Cert)」なものにする場となるでしょうか?


「緊急アンケート《コロナ禍における想像力調査 声の質問19》」2020年、仲町の家
「緊急アンケート《コロナ禍における想像力調査 声の質問19》」2020年、仲町の家

 2つ目は、美術家・友政麻理子が企画する「窓映画館、カーテンの夢」です。友政は、かつてアフリカのブルキナファソの村で、テレビもないホームステイ先の家族に朝食のとき「ゆうべはどんな夢をみた?」と問いかけられ、驚いた経験があるといいます。コロナ禍の日本で、人びとはどんな夢をみているのだろう? そう思った友政は、春から「夢を語り合う会」を重ねてきました。集まった夢をもとに制作される映像作品が、千住各所の「窓」に投影されます。窓を回遊しながら夢の映像を鑑賞する「窓映画館、カーテンの夢」。日本では、あまり語られることのないプライベートな「夢」が、「窓」を通して外へと開かれていきます。


「窓映画館」2020年、仲町の家の窓に投影 写真:工藤康浩
「窓映画館」2020年、仲町の家の窓に投影 写真:工藤康浩

 最後のプログラムは、千住ほんちょう商店街(旧・日光街道)にさまざまな表現者が集う1日限りのパフォーマンスプログラム。その名も「1DAYパフォーマンス表現街」です。江戸時代から旅人たちが往きかい、文化が交流する場であったこの道を会場に、多彩な表現を介して、人と人、人と場所、人とアートが出会う舞台が出現します。出演するのは、公募で集まった約50組の方々。音楽もあれば、落語もある。ダンスに手品も? 年齢や技術、ジャンルも問わず、表現欲求を掻き立てられた方々によるささやかなお祭りです。ゲストには、ダンサー・アーティストのAokid、振付家のアオキ裕キと路上生活経験のあるメンバーによるダンスグループ「新人Hソケリッサ!」、さや(テニスコーツ)と遠藤里美(管弦楽団 biobiopatata)を中心に結成された「ざやえんどう」の3組が登場予定です。


 「不要不急」の行為の自粛が叫ばれるなか、自分のなかにある何かの発露や、表現を通して誰かとつながることは、今、必要のないことなのだろうか。いや、そうではない! と、僕たちは考えます。

 アサダは「質問」を通して、友政は「窓」を入り口に、表現街では「商店街」を舞台として、ひとりひとりの内なる何かを表していきます。コロナ禍に対するこのささやかな抵抗を受け入れてくれるのは、長年音まちのさまざまなプログラムを侃々諤々と意見を交わしながらも続けさせてくれた千住のまちだけかもしれないと信じて。

 「千住・人情芸術祭」が無事に実現され、それぞれのプログラムで僕が思い描く情景が「正夢」となることを願っています。


𠮷田武司(アートアクセスあだち 音まち千住の縁 ディレクター)

 

【2021年8月発行号掲載】


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