• 音まち千住の縁

シャボン玉がつむぐもの

最終更新: 2020年12月29日

大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住 いろは通り」 写真=森 孝介




千住のメモリバも9年目。

この写真は、1回目のいろは通りのひとコマ。

雨の中のシャボン玉は

虹色にきらめいてきれいでした。

今号は、「あの日」から「今」までをふり返ります。

 「シャボン玉のイベント」はもしかすると、数ある「音まち」のプロジェクトの中でも一番知られた企画かもしれない。2017年に放映されたNHKの地域発ドラマ「千住クレイジーボーイズ」でも、まちのおじさんたちがこどもたちのために熱く取り組む地域の祭りとして登場した。

 無数のシャボン玉で、日ごろ見慣れた風景を一変させるという冒険。それはアートファンだけでなく、まちに暮らす小さなこどもたちから親世代、さらにはその上の世代にとっても、とてもワクワクする体験だ。「メモリアル(記憶)リバース(再生)」、通称メモリバと名づけられた、アーティスト大巻伸嗣のチャレンジが、千住で、そして足立区で、まるで昔ながらの年中行事のように9年にわたり受け継がれてきた裏側に迫った。



1500万個のシャボン玉の裏側

 「みんな感激していました。千住での開催のときより、こどもたちがすごくうるさかったって言われましたが(笑)、もう楽しくってしょうがなかったみたいです。年配の方は『生きてて良かった』とまで言ってくださって(笑)。私も千住で見て、あのきれいなシャボン玉を、西新井の人たちに見せてあげたい、という一心で、関わってきました」と話すのは、2018年の「Memorial Rebirth 千住 2018 西新井」の地元メンバー高橋純子さん。

 1500万個という想像もつかないような数のシャボン玉は、約50台の白いバケツ型のマシンから飛び出す。そのマシンを運び、積み上げ、開催中にスイッチを入れたり切ったり、こどもたちが興奮してマシンになだれ込まないように人海戦術でバリケードをつくったり、終了後はマシンを洗い、メンテナンスして、保管場所に運ぶ・・・。感動の裏には、実はたくさんの地味な仕事があり、高橋さんのような地元の、地域を愛する、あるいはこどもを思う大人たちによって営まれている。メモリバには、企画や折衝、広報などほかにも多くの人たちが関わっているが、主にマシンの運営に携わるチーム「大巻電機K.K.」が、地域の大人や学生たちによって構成され、開催場所を変えバトンを渡しながら脈々と受け継がれてきていることが、音まちのほかのプロジェクトにない特徴だし、日本全国のアートプロジェクト関係者からも一目置かれるポイントだ。


大巻電機K.K.



川のあっちとこっち

 2017年度まで千住エリアで開催されてきた「Memorial Rebirth 千住」が2018年度、初めて荒川を越えて西新井第二小学校での開催となったのも、高橋さんほか、西新井エリアの大人たちの熱い思いから実現したものだ。

 「私たちの地域が中心のイベントってほとんどなくて、荒川をはさんでこちら(北)側の人たちは『また、どうせ千住でしょ』って、どこかで卑屈になってるようなところがある。だから余計に、メモリバって『足立区』のイベント、『足立区』ならではのものだって思われるようになったらいいなって思うし、足立区で育ったこどもたちは、大きくなって区外に出ても、帰ってきたら『ああ、僕らもたくさんのシャボン玉の中で遊んだよね』っていう思い出になればいいなあって」。

 そんな思いはもちろんだが、メモリバをつくり上げていく時間もとても楽しいのだという。「川のあっちとこっちで正直、ラインがあったのですが、千住の吉川さんも『こどもたちのためにやろうよ』というところがある方なので、意見が合った。ひとつのことをみんなで共有して積み上げ、最後にわーっとみんなが歓喜する時間をつくれるのは達成感もあるし、楽しいなって思います。東京電機大学の子たちが新しいものを作り出したり、東京藝術大学の子たちが新しいアイデアを考え出したりするじゃないですか、それも面白くて」(高橋さん)。


高橋純子さん



どしゃぶりから始まった

 2011年度、足立区で初めてのメモリバは、千住いろは通りで開催された。当時千住にアトリエを構えていたアーティストの大巻伸嗣は「まちの課題を解決するためにアートを入れれば何とかなる」というような安易な依頼なら受けたくない、と釘をさした上で、「地域のバトンをつなぐアートプロジェクト」としてこのメモリバを提案してくれた。

 当日はあいにく、雨がどしゃ降る中での開催となったが、傘をさして多くのこどもたちが来てくれ大はしゃぎ。昭和30~40年代にものすごい人通りだった商店街の光景がふっとよみがえるようで、まちの人たちのこころを熱くした。このときから関わりはじめたのが、千住いろは通りに面する千寿双葉小学校の元PTA会長、前出・吉川和宏さん(パトロール隊「ガーディアンシップ北千住」発起人)ら地域の親父たち。その、少々いかつい(?)風貌とメルヘンチックなシャボン玉のコントラストがユニークすぎて、以降、折に触れ、テレビ番組などでも取り上げられる名物チームとなっていく。

 2012年度、千寿本町小学校では、しゃボンおどりが誕生。2013年度の千寿常東小学校からは、千住に移転してきて間もない東京電機大学のチームが地域をテーマに映像製作に取り組み、特に2014年度、千住旭公園の築山への夜の映像投影の中、シャボン玉がふわふわ飛ぶ風景は幻想的で、来場者のこころをとらえた。2015年度は千住の名所ともいえる足立市場で開催。来場者も多く、昼間のしゃボンおどりも華やかだったが、コントラバスとピアノの即興演奏とパフォーマンスの中に上がるシャボン玉はまた格別だった。2016年度からは、ティーンズ世代とのコラボを試みる。千寿青葉中学校ではアート部、吹奏楽部と連携。2017年度の関屋公園では「1日だけのティーンズ楽団」を結成した。


大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住 2012 千住本町」


大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住 2014 太郎山」


大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住 2015 足立市場」


大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住 2017 関屋」


アートがバトンをつなぐとき

 2017年度、2018年度と連続でティーンズ楽団に加わった遥月さん(現在中2)、和泉さん(現在小2)姉妹は、歌と踊りで参加した。音楽が好きで参加を決めたが、2018年度の西新井第二小学校では、お立ち台にも上がって参加者の踊りをリードした。「楽しかった」と2人は声を揃える。それをバックアップする姉妹の母親は「自信がついたんだと思います。みんなのお手本になって踊ったわけですから。歌いながら踊るので少し緊張してましたが、終わった後、すごい気持ち良かったと。こういう経験は、学校やほかのことにも影響してくると思います」と微笑む。先輩から受け継ぐ形で企画に参加してきた元電大生の小野寺慧知くんも、メモリバは「視野を広げてくれた」と言い、技術系の会社ながらマネジメント部分に関われる企業に就職を決めた。

 大巻伸嗣のメモリバは世界各地で開催されているが、毎年のように、そのバトンをつないで継続開催されているのは足立区だけだ。つながる中で、いくつもの人の縁が生まれたり小さな気づきが生まれたり・・・次のバトンを渡す予定の2020年の、東京・足立が楽しみでしょうがない。



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